「くそっ、まだ着かないのか!」
そこは数十人は収容できそうな、広い空間であった。だが今いるのは、四十歳ほどに見えるこの男一人のみである。
どうしようもない苛立ちは激情に変わり、男は壁に勢いよく拳を叩きつけた。
二メートルを越える長身から繰り出された一撃。だが壁は──ほんのわずかに揺らいだだけだった。半拍遅れ、拳が当たったポイントに、ふわり、と柔らかい光が灯る。光は瞬く間に千々に砕けたかと思うと、蛍のように壁の二次元平面上を乱舞し、静かに消えていった。
「攻撃を吸収して、光エネルギーに変換出力しているのか……!」
数秒間の華麗なショーを見終わると、男の目が驚きで輝いた。夢のように綺麗で、どこか儚い光景。先ほどまで苛立っていた己を諌められているようで、男は決まり悪そうに自らの頭を掻いた。ろくに散髪する暇などもなかった近年、不規則に伸びっぱなしの青い髪がぐしゃぐしゃと揺れる。
「しかし、こんな古代の超テクノロジーが完璧に残っていようとも、ここに救いの欠片なぞない。今、人類に必要なものは……未来だ」
ため息をついて壁にもたれかかると、男はもう一度髪をかき上げた。無機物を連想させる白い膚が露になった。意志の強さを感じさせる太い眉の下には、吊り気味の大きな目が覗いている。眉も、瞳も、髪の色とぴったり揃った青である。かの有名な一族の遺伝的形質が、もれなく発現された、人を惹きつける特別な色。もっとも、本人は自分のそういった外見に関しては気に留めていない──彼も、彼の妻も、さして見た目など気にする性格ではなかったからだ。
その最愛の妻が、まだあんなところに居るとは──男は気づかぬうちに、唇を噛みしめていた。寸刻を争う今だというのに、なぜ彼女はこのような行動に出たのだろうか?
同時に、忘れていたはずの怖れが走った。搭乗時間から算出すると、もう二度と近寄りたくない、と思っていた”あるもの”と今また接近遭遇していることになるのである。
ここは、地球塔最上階へ通じる超高速エレベーターの中。
男の名は、白川乱造。
強烈な太陽風によって壊滅の危機にあるこの地球上において、最後まで理性を保ち続けている、数少ない人間のうちの一人だった。優秀な科学者であり、民衆の心をコントロールする術にも長けた彼が東奔西走しているおかげで、なんとかまだ人類は滅びずに済んでいる、というのが周囲の評価であった。なかでも──あの。
「ペルセポ……」
ぼんやりと名を半ばつぶやいたところで、乱造は慌てて我に返った。名を呼ぶだけで、あれが再び目を覚ましそうな気がしたのである。《ペルセポネ》……宇宙を巨人の姿で漂い続け、この長大な塔に囚われた、想像する神。ペルセポネの想像と、もう一つの力によって人類は誕生したと言われている。
「……キューブ……」
今度の乱造の口調には、恐ろしいほどの憎しみが篭もっていた。あらゆる物を具現化する、全てを超越した力を持ち続ける機械塊。もうひとつの創生神。ペルセポネが想像した物を、キューブが生む。そして一度生み出したものを、キューブは決して自らの懐から離そうとはしない。この危機的状況にあってもなお、キューブは人類を拘束し続けた。
地球から脱出しようとした最初の移民宇宙船団は、大気圏外へ出るか出ないかのあたりで突然爆発を起こした。希望を乗せていたはずの幾十もの船が、不吉な流星と化して堕ちていく──あの時乱造は、丘の上からただ、堕ちる星々を眺めるしかできない己の無能さを憎んだ。そして最後の煌きが堕ちた瞬間、脳裏で何かが弾け、キューブを止めるためのあのアイディアが突然降ってきたのだった。
『キューブを、止めるの?』
『ああ、そうだ。キューブは人類を操っているつもりでいるが、実はキューブもあいつに操られている』
『……ペルセポネのことね』
『察しがいいな──ひょっとしたらおまえは、最初からこの方法を知っていたんじゃないのか?』
妻はいつものように、遠くを夢見ているような顔のままで、うっすらと微笑んだ。乱造の問いに対して、結局答えはしなかった。
乱造が思いついたのは、ペルセポネにとある『夢』を見させるウイルスを投与するというものだった。
ペルセポネの想像を、キューブは全て具現化する。そうして具現化された実世界の事象が、またペルセポネの知覚器官にフィードバックされ、新たな想像の源となる。
──となれば、もしペルセポネを眠らせて、『キューブが停止する夢』を見させたとしたら? キューブが停止すれば、ペルセポネを刺激するような新たな存在は生まれ得ない。ペルセポネが想像しなければ、キューブは力を発揮できない……乱造の計算では、このループが数ナノ秒も続けば、完全にキューブは停止してしまうはずだった。
そしてその目論見は正しく、あっさりと計画は成功した。「なぜこんな簡単なことに気づかなかったのか」と誰もが口にしてしまうほどに。こうしてキューブの支配を逃れた人類は、ようやく今度こそ宇宙へ脱出し始めた。乱造たちが乗る船も、バーナード星系へ向け出航の準備を整え、あとは新天地へ向けて飛び立つばかりであった。
こうして冷静に思い返すと、やはり彼女は知っていてわざと隠していたのだ──という気がする。そうでなければ、今回のような行動を取るはずがない。
再び乱造が壁に拳を叩きつけそうになった瞬間、扉が開いた。
反射的にそちらへ駆け寄ろうとする気持ちを押し留め、なるべく落ち着いた風情を装って、乱造はゆっくり歩き出した。
扉の外──地球塔最上階のその部屋には、幾つかの古代機械が放置されたままだった。大小さまざまの違いはあれど、今の人類には用途すらわからない、という点のみが共通しているという代物だ。
ひときわ巨大な機械の前で、誰かが忙しそうに動き回っているのが見えた。
「今、機械をいじっている余裕があると思うのか? 出発の時間はとうに過ぎている」
歩み寄りながら乱造が声をかけてもなお、その人物は平然と作業を続けていた。見慣れた小柄なシルエットが、くるくると踊るように機械の周囲を跳ね回っている。学生時代、初めて会った時の光景の再現のようだった。彼女が一度集中すると、大抵のことでは手を止めもせず、寝食を忘れて幾夜も、終いには疲労で気絶するまで実験を続けるのである。そうして、倒れた彼女を介抱したことから二人の交流が始まって今に至るのだったが──そういった甘い思い出に浸っていられるような時ではなかった。
「……ハル!」
たまりかねて、乱造は妻の名を呼びながら、その細い肩を後ろから強引に掴もうとした。が、伸ばした手は宙で止まってしまった。ゆっくりとこちらを振り返った妻──ハル・竹原の視線が、意外なほど穏やかなものであったからである。
次のハルの行動は、さらに斜め上をいくものであった。
「あなた、ごめんなさい」
神妙な表情を作り、彼女は素直に謝ったのである。
てっきり大喧嘩になると思っていただけに、この展開にぽかんと口を開けて立ち尽くしてしまう乱造。実は(愛する妻にできればそんなことはやりたくないが、という注釈はもちろんつくとして)最後は実力行使しかないのかもしれない──と、ポケットに麻酔銃を忍ばせていたほどだったのだ。
「ここで最後の賭けに出たつもりだったんだけど……やっぱり、駄目だったわ。今は、私の負けね」
ハルは残念そうに、今までいじくり回していたパネルの表面を撫でた。
「一体この機械は……何だ?」
科学者としての乱造の好奇心が、思わずその質問を発してしまう。
「これは、トレーダー」
「なんだと! あの伝説のトレーダーが──」
「……と、思ったけど、実は違ったわ……」
ハルは、くすりと笑った。梯子をかけてはずすような物言いに、乱造の口はますます大きく開いたまま硬直してしまった。
「パパが創った機械の特徴があったから、最初はその可能性も考えたの。だから、あなたに逆らってまで、最後までここに残ってしまった。こんなに大きなものを、宇宙船には持ち込めないから……」
ハル・竹原の父・ヴィヴァルディ竹原。宇宙最高の頭脳を持つ彼は《トレーダー》と呼ばれる機械を創り、さまざまなものを生み出したという。一説によれば、新たな宇宙を創生することすらできたというのだ。
「もしこれがトレーダーだったとしても、私はまだパパほどの科学者じゃないし、宇宙を創るなんてできないわ。でも、起動させればたぶん《ヒルトンの道》なら開ける」
「ヒルトンの道……地球・木星・エデン・ノーザンバランドを貫くというワームホールか。しかし、そんなものを開いて今さらどうしようと……」
乱造は、息を呑んだ。妻が以前ふと口にした、あの言い伝えを思い出したのだ。察したのか、ハルは微笑んで頷いて見せた。
「相変わらず、私の言ったことをいつまでも覚えていてくれるのね。妻としても、科学者としてもすごく嬉しいわ。そう──エデンへ行くつもりだったのよ。パパが、《エデンの園》に、ここよりももっと色々なものを遺しておいてくれているはずだから」
「俺と、可愛い息子を置いて、たった一人で行くつもりだったのか?」
皮肉を込めて乱造が言い放った時、古代機械の後ろから細長い影が姿を現した。
「──父さん、それは思い違いだ。母さんにそんな失礼なことを言わないでくれ」
乱造とまったく同じ、青い髪に白い膚。ただし目は、濃いサングラスで隠されている。まだ十代半ばほどにしか見えないこの子供こそ、乱造・ハル夫妻の息子、白川シキであった。
「シキ! お前もここに来ておったのか。まあいい、二人とも、もう戻るぞ。船のクルー達ももうこれ以上は待てんと言っている」
「ちゃんと今行くからさ。落ち着いて聞いてくれよ、父さん」
シキは、にやりと笑って二人の間に割って入った。こういう横柄な口の聞き方をするのが、乱造にとって内心忌々しい部分ではあったが──それもしょうがあるまい。キューブポリスの大学を、もはや忘れてしまうくらいの昔に卒業してしまった息子だ。
実は、見かけこそ子供らしさを残していても、既にシキは通常の人類の数倍もの時間を生きているのである。白川一族に伝えられた遺伝的形質の最大の特長は、青い髪でも白い膚でもなく、『不死』に近い恐ろしいまでの長寿であった。大体思春期あたりから、成長速度が極端に緩やかになり出すのである。当然ながら乱造も、もう自分でも覚えていないほどの歳月を生きてきている。ならば、妻・ハルとの年齢差は──というと、ハルはハルで別の要因により長寿と若いままの肉体を得ているのであった。ある意味、釣り合いの取れた夫婦といえよう。
「ヒルトンの道が開けてたとしたら、ちゃんと急いで父さんを迎えにいくはずだったんだよ。だって、お祖父さんの作った機械が開いてくれるワームホールだもの。父さん達の宇宙船より、よっぽど安全確実、しかも楽にエデンに着きそうだ」
父親の尊厳をあまりにも貶める発言に、さすがに肩を落とす乱造。
「しかし、そもそも船の目的地はエデンじゃない。バーナード星系だ!」
「今から、エデンに変更すればいいじゃないか」
「……エデンの正確な位置を割り出す術が、地球にはもう残されておらん……」
乱造の弱音を聞きつけたかのように、今までうんともすんとも言わなかった古代機械が急に動き始めた。幾つかのパネルが目まぐるしく点灯したかと思うと、機械の隅のほうから「かたん」と小さな音が響いた。ハルはにわかに目を輝かせながら近寄ると、機械から吐き出された小さなものをそっとつまみ上げた。
「はい、あなた」
「……何だ?」
「まだわからないの? 父さん」 横からシキが口を挟む。
乱造の大きな手のひらに乗せられたそれは、直径数ミリほどの古代チップだった。さきほどハルは、この機械のことを「パパが創った機械」と言っていた。となると、まさかこれは……。
「パパはちゃんと、航海図も遺してくれたのよ。ワープ航法の改良法も書いてあるみたい。これなら、少し船を改造すれば大丈夫。行きましょう、エデンへ」
「しかし、クルーが今さら納得してくれるか……」
「もし、私たちの船がエデンへ向かわないというのなら」
ハルは、乱造の目をじっと見つめた。
「私は、何があってもここに残ってペルセポネを目覚めさせるわ──その意味がわからないあなたじゃないでしょう?」
「ハル!!」
乱造は絶句した。元々キューブ擁護派で、「キューブの力があれば太陽を制御できる」と言って、最後の最後まで乱造の計画に積極的賛成をしなかった妻である。
もちろん乱造も、科学者としてのハルが、自分より数段、いや数十段上を行っているであろうことは感じていた。ひょっとしたらハルが正しいのかもしれない、と納得しかける瞬間もあった。しかし、数十万年にも及んできた人類とキューブとの争いを思うと、どうしても──今さら、手のひらを返してキューブを信じる気にもなれなかったのである。そうこうしているうちに民衆の大部分が早々とパニックに陥り、地球脱出派が圧倒的多数を占めたからこそ、キューブ停止計画という名のクーデターが遂行されたのだ。つまり、政治的圧力が乱造の理論をうまく後押ししてくれたような形だったのである。
今、もしペルセポネが目覚めれば──言うまでもない。キューブは人類の脱出を決して許しはしないだろう。そして、自分を一度停止させたことも忘れはせず、二度と同じ手は食わないように内部回路を組みかえてしまうに違いない。乱造の背中を、冷や汗が伝った。
「……わかった、クルー達はなんとか説得しよう。とにかくもう、時間がない。シキ、母さんが船を改造するのを手伝ってやれ。船のメインコンピューターにチップの情報を移せば、修理ロボット達がある程度下作業をやってくれるだろう」
ついに、乱造は妻と息子に根負けしたのである。
乱造たちが乗る予定の宇宙船は、崩壊しかけた発射場にかろうじて残っていてくれた。
「ねえあなた、エデンっていうのは衛星の名前で、そこの惑星のほうにはある程度生物が住んでるんですって。でもまだ、下等生物ばっかりみたい。遺伝子操作で、何か面白いものができないかしら」
「父さん、エデンの園って何があるのか楽しみだよね。きっとお祖父さんのことだから、びっくりするようなものを遺しておいてくれてるんじゃないかな」
楽しげに喋り続けるハルとシキ。もしここで二人を麻酔銃で眠らせてバーナード星系に向かおうものなら、絶対に後で恐ろしいことが起きるに決まっている。宇宙船は密室だ。逃げ場はない。それに、かの伝説的存在、ヴィヴァルディ竹原ゆかりの地であれば、まったくの新天地に飛び出すより、少しは安全だと言えるかもしれない。
必死にそう考えてみようとする乱造であったが、《エデンの園》という響きに、どこかしら不吉なものが拭い去れないのも事実であった。遥かなる昔に伝わっていた宗教から取られたのであろう、その名。人の始祖が、神に禁じられていた知恵の実を食べた代償に、エデンの園を追われて子々孫々までその罪に苦しむことになった──というような伝承を、かつて塔で見つけた古代チップの中から読んだ覚えがある。
見上げると、暗くなりかけた空を無数の船団が埋めつくしている。発射場からも、ひとつ、またひとつ、と船が飛び立っていった。
「ハル、早く行くぞ」
あの遠くを夢見ているような表情のまま、まだ名残惜しそうに地球塔を見つめ続けていた妻の手を引く。
乱造の予感は、実は的中していた。
やがて彼は自分の息子・シキに裏切られ、シキは《エデンの園》から新たなる知恵の実──祖父・ヴィヴァルディ竹原が残した本物のトレーダーを発掘してしまうだろう。それが起動してワームホールが開かれた時。地球人の生き残りと、とある猫人と、エデンの園から来た者たちが一斉に集う時。再び、悲劇の扉が開かれるのである。
もちろんそこまで乱造が知る由もないが、彼がエデン行きに同意してしまった今ここで──新しく、宇宙が分岐したのであった。
その頃。ある船の乗客の一人が、遥かな高みからこの一行を偶然見つけていた。ほとんどの地球人が脱出したというのに、まだ人間らしき存在が発射場の広い通路を横切っていくことに驚いて、思わずスクリーンの拡大率を最大にしてしまったほどである。そして、驚きの声が漏れた。地上を歩いてゆく三人のうち、二人の髪の色のことに気づいたのである。あの特殊な青にはっと思い当たらない地球人はいないだろう。
「あれは……白川一族の誰かか。最後まで地球に残っていたとは、さすがだな」
噂では、白川一族のうち、白川乱造と白川シキ、ハル・竹原という高名な科学者一家が、乗る船は違えど、自分たちと同じバーナード星系を目指すと聞いていた。ひょっとしたら、あの三人がそうなのだろうか?
もしいつか彼らに会えたら、「あの時、空から見かけましたよ」とでも声をかけてみようか──いや、それは無理だろうな、と乗客の青年は一人苦笑した。自分はしがない一市民。あの伝説の一家と会う機会なんて、そうそうあるはずもない。第一、今は自分たちが生きるか死ぬかの瀬戸際なのだ。
「ねえ、ベガお兄ちゃん。そろそろみんなおやすみする時間だって……」
足元に、揃って灰色の髪と瞳を持つ小さな女の子たちがわらわらと駆け寄ってきた。青年──ベガの、三人の妹だった。「わかった、今行く」と言って、ベガは立ち上がった。
妹たちのせかす声に囲まれながら、それでもまだ未練がましく、最後に今一度じっと地上を眺めるベガ。白川一家の影は、地球塔の長い長い影の回転にじりじりと飲み込まれ、消えるところだった。その影もまた、地球を覆う夜の闇に溶けていく。
「──永い夜が、始まるな」
そんな言葉がベガの口をついて出た。これから行われるコールドスリープから目覚めた時、果たしてどういう世界が広がっているのか、まったく予想もつかなかった。
「お兄ちゃん、早く早く! みんな待ってるのよ!」
今行く、と答えると、ベガはようやく船内の狭い通路を歩き始めた。後ろで、自動的に観測用スクリーンが閉じられる音がした。もはや、地球をこの目で見ることは叶わないだろう、とベガは思った。まずは、なんとしてでも皆で生き延びることを考えなければ──。
人という種を存続させるために作られた無数の船は、そうして夜の彼方へと消えていった。
人類が地球を捨てたこの時代の後も、地球塔だけは変わらず荘厳に立ち続け、全てを見守ってゆくだろう。その身に、夢見る巨人とあの機械塊を宿したまま。
──いつか、永い夜が明ける日まで。
地球、ここにありけりと高らかに歌う者を迎えるために──。
◆あとがき兼考察
「アールエス」では過去のエピソードとして語られていた、「乱造・ハル夫婦の見解の相違」はこういう感じだったのかな、と書いてみました。
ハルがキューブにこだわり続けたのは、彼女が実はスペシャリスト=キューブを守護する者だったからなのでしょう。ただし、アールエスの22話で、ミッドポイントとキューブが融合した後、「キューブを守護するスペシャリストはこの宇宙から消えた」と語られているので、ハルは「スペシャリスト」というより「科学者」として行動している気がします。
「宇宙が分岐した」というのは、もし乱造がエデン行きに同意せず、ハルが本当にペルセポネを再び目覚めさせていたら、キューブを本当に制御して地球を救っていたんじゃないかと思ったからです。
そこまで優秀なハルが、キューブ停止計画で乱造に押し切られていたのは……科学力では勝っていても、白川一族の持つ「政治力」に屈してしまったというのが自分の考えです。宇宙を放浪する竹原一族より、ゴート機構に潜りこんだりしている白川一族のほうがそういうところ、しっかりしていそうなので。そのような経緯で地球を一度捨ててしまった悔しさの反動が、後にハルを怪生物の研究とか天界実験とか「危ない」方向に向かわせてしまったのではないでしょうか。
それと共に、キューブ嫌いの夫のために「キューブに支配されない方法」を考えた結果が、チュルホロ人生成につながったのかもしれません。
AMの発行物「チュルホロ星系調査書」によると、シキの弟の白川雪は出身が「衛星エデン」なので、生まれたのは旅が終わってからなんでしょうね。ていうか何歳違いの兄弟なのか計算するのが恐ろしい。
ベガの「妹が三人」は、アールエスで「黒竜と白馬の〜」想い出の欠片シリーズを使用した時に見られるエピソードから取っているので、一応公式設定ということでよろしくお願いします。
えーとそれと、時系列的にはここから『ジスロフ帝国の興亡』につながるわけなんですが、あっちでほとんど滅亡状態のはずの地球から当たり前のように女子高生とか連れてきてるという有名な矛盾があるんですよね。『興亡』はジスロフシリーズ初作品ということもあってか、ジスロフが時々「ジスカル」、ハルが時々「フユ」になってたりとか色々ありますし、発表年が離れた『アールエス』との整合性を要求するのも無茶かもしれませんが。
ということで、色気も何も無いお話でしたが、ご読了ありがとうございました。